一本の竹から広がる無限の可能性
国道432号沿いにある竹製品の店「竹の駅」。この建物に隣接する一間で黙々と手を動かすのは、2017年に横浜から移住した寺本光希さんです。寺本さんは「竹の駅」の商品販売を手伝いながら、ここを拠点に竹工芸職人として制作に励んでいます。
「竹原をもっと多くの人に知って欲しい」と話す寺本さん。移住の背中を押したのは、大学時代に訪れた「たけはら憧憬の路」でした。竹筒に入れた蝋燭を灯し、江戸時代から続く街並みをライトアップされた幻想的な様子は、寺本さんの作り手としての想いにも火を灯すことになったようです。



小学生の頃から図工や技術が得意で、幼くしてものづくりの道に進むイメージを持っていたという寺本さん。「高校生の頃、テレビで見た竹細工の制作風景に釘付けになりました」と、竹細工の道を究めようと心に決め、大学では竹工芸を専攻し、腕を磨きました。
竹原市に移住してからは、山で採った「真竹(まだけ)」を使って、制作から販売までを一貫して行い、生活用品の制作やワークショップを開催しながら、竹を通して町の魅力を発信しています。




伝統の先へ、竹細工の新たなかたち
寺本さんが特に力を入れて作るのは、暮らしに溶け込む道具です。竹原の竹細工の歴史は比較的浅いそう。「既存の枠にとらわれずに新しいデザインにチャレンジしてみたい」と、細く整えた竹ひごで繊細な籠や小物入れを作るほか、時に立体的なオブジェにも挑戦します。机にコロンと置かれることで、空間に遊び心が生まれると同時に、どこか建物に馴染んでいるようにも見えるのは、自然素材だからこそ。丁寧な手仕事から生まれる作品は、暮らしに彩りを添えてくれます。



竹ひごをくるり八の字にひねった、モビールのような美しさを放つハンガーは、金属造形作家の辻󠄀陽水さんと共同で手がけたもの。フックに使われている真鍮がアクセントとなり、佇まいに気品を感じます。これまで一人で制作をすることが多かったという寺本さんですが、最近は違う素材との掛け合わせや、異なる分野の職人との交流に関心を向けることで、作品の幅を広げているようです。


竹を学び、竹を編み、竹で遊ぶ
竹原市には、竹並木や竹をテーマにした運動公園があるほか、「竹まつり」や「たけはら憧憬の路」など、さまざまな場所やイベントで「竹」が象徴的に扱われています。そんな竹を、より身近に楽しめる観光地として有名なのが、たけはら町並み保存地区内にある「まちなみ竹工房」です。
ここには、竹でつくられた籠やざるといった生活用品から、竹とんぼや風車のような昔ながらのおもちゃなどが棚いっぱいに並びます。空間の一角には畳があり、工房の職人数名がここで作品づくりをしながら、接客や竹細工体験を行なっています。小さな工房ながら、竹アイテムの幅広さに目を見張ります。



「まちなみ竹工房」は、今年で45年目を迎える「竹原市 竹工芸振興協会(旧:竹工芸同好会)」のメンバーによって運営されています。寺本さんも、会員として作品を収めたり、大型のオブジェを共同制作したりと、一緒に町を盛り上げます。会員数は延べ100名以上。シルバー人材センターで講座を設けることで、そこから会員となり地域貢献活動に加わる年配者も多数在籍しています。これまでに地元の祭りやイベントで大型作品を展示したり、マツダスタジアムの竹トンネルや、成人式の記念品をつくったりと、さまざまなシーンで活躍しています。




「まちなみ竹工房」で一番の人気は、小さな子どもから大人まで挑戦できる「風車づくり」です。風車は、竹を細く割って削り、風車用の長さに整えられた竹ひごを、専用の台の上で編んでつくります。竹ひごの編み方は、その人ごとのペースに合わせてマンツーマンで教えてもらえるので安心。竹ひご編みが難しい小さな子どもは、風車に着ける色とりどりの和紙を選んで貼り付けるだけでも、楽しい時間を過ごせます。完成した風車にフーッと息を吹きかけると、軽やかに回り、愛らしい。竹原を訪れた記念として、部屋に飾れるおすすめのお土産です。


竹細工の未来担う、職人の手仕事に触れる
竹のしなやかさや強度を活かした竹細工は美しさと実用性が両立し、現代の生活にも馴染むデザインが多いのが特徴です。竹原では籠やザルのような日用品から、照明器具やバスケットなどのインテリア雑貨など、作り手の個性を積極的に生かした数々の作品が、日々生み出されています。そこには寺本さんのような、竹細工の可能性を求めて竹原を訪れる新たな担い手の存在も欠かせません。一本の竹を割り、編み、形を作る職人の手仕事からは、ものづくりの温かみと奥深さを感じます。竹原で職人の手仕事に触れながら、竹の魅力を感じてみてください。