藤井酒造が挑む、“日本人が日本を誇れる”酒造り

  • Feel

藤井酒造
マイプランに登録
藤井酒造が挑む、“日本人が日本を誇れる”酒造り

取材先

藤井酒造

住所

725-0022 広島県竹原市本町3-4-14

営業時間

11:00~16:00

定休日

月曜日(祝日の場合は翌日)

公式SNS

アクセス

JR竹原駅から徒歩約15分

生酛造りを徹底し、蔵に息づく酵母と向き合う

 まだ星がまたたく夜空の下、たけはら町並み保存地区の一角では、本日の段取りを手早く打ち合わせ、真剣な面持ちで仕事を進める蔵人たちの姿がありました。ここは1863年創業の「藤井酒造」。創業から約160年、良質な仕込み水に恵まれたこの土地で、米と米麹のみで醸す純米酒をつくり続けてきました。2024年に代表に就任した6代目・藤井義大さん、そして2023年に杜氏となった岡田唯寛さんの新体制のもと、蔵は新しい挑戦の真っ只中にあります。

 麹室には、ホクホクに蒸した栗のようなやさしい甘みが漂います。「藤井酒造では、麹菌をたっぷり使います」と語るのは杜氏の岡田さん。麹のわずかな変化を捉え、まるで生き物の呼吸を探るように温度を微調整していきます。もともと島根で教員をしていた岡田さんは、酒好きが高じて25歳で日本酒の世界へ転身し、約10年前から藤井酒造で腕を磨いてきました。岡田さんが杜氏となった2023年は、蔵が全ての酒を伝統的な『生酛造り』に統一した転換期でもありました。

原点に立ち戻ることで見えてきた方向性

 徹底した「生酛造り」の背景には、藤井義大さんが描く酒造りの方向性があります。藤井酒造は1907年の「第一回全国清酒品評会」で「龍勢」が日本一を獲得し名を轟かせました。当時は蔵付き酵母を使った生酛仕込みでしたが、戦後は効率化の波で途絶えます。藤井さんは、そこに蔵の原点があると考え、「お金で買えない価値こそ唯一無二の個性になる」と、生酛への統一でその一歩目を踏み出しました。将来的には全ての酒を蔵付き酵母で醸すことを目指しています。

 酒米が蒸されて立ち上がる蒸気、無心で手を動かす蔵人。酒造りは、どこか厳粛で張り詰めた空気すら漂っている……と、想像しがちですが、今蔵に流れているのはアニメ「ガッチャマン」のテーマソング。なんと、ここでは蔵人の好きな音楽が次々と流れ、みんなノリノリで手を動かしているのです。これは「結果は大切にするが、過程は面白くあってよい」と考える、藤井さんの方針に基づくもの。肉体労働の多い現場に、さりげない明るさを添えてくれる粋なはからいです。

変わらないことは、変わり続けること

 徹底した「生酛造り」へのこだわり、そして全酒の「蔵付き酵母」化に向けた挑戦と、伝統を重んじながらも働き方や技術面は最新のものへとアップデート。藤井酒造は今、新たな章が始まっているのです。
 キャッチフレーズ「土と蔵と、日々を醸す。」には、竹原という土地からの恩恵、蔵に育まれる独自の生態系、そして日々受け継がれてきた蔵人の姿勢、その三位一体が生み出す、“藤井酒造だけの味わいをつくる”という強い意志が込められています。

日々の観察と記録が、未来の味をつくる

 一言で「生酛造り」「蔵付き酵母を使用」と言っても、それを実現するのは並大抵のことではありません。藤井酒造の仕込み水は花崗岩を通った軟水で、酵母の発酵が穏やかに進むのが特徴です。微生物の力に委ねる生酛造りでは、この“穏やかさ”がかえって難しさを生みます。杜氏の岡田さんも試行錯誤の連続だったと語りますが、そこから生まれる「複雑み」こそ、酒の個性そのものです。

6代目として見据える、未来の酒蔵

 高校生の頃にシンガポールへ1年間留学し、進学先にはカリフォルニア州立大学を選んだ藤井さん。国外の文化に触れる中で抱いた「悔しい」という気持ちが、この道を選ぶきっかけになったと語ります。「海外では、みんなが母国を誇らしげに話すのですが、日本人は国への評価が低いことに気がつきました。だからこそ、日本酒を通して“日本って素晴らしいんだ”と言えるようにしたいと思ったんです」。

 「偶然、家業が日本の文化に根付いた職業だった」という理由で、跡を継ぐ覚悟を固めた藤井さん。2013年に蔵人となり、酒造りを一から習得しました。経営者となった現在は、「温故創新」をテーマに掲げ、蔵の生態系の中で酒を作り続ける酒蔵を目指します。藤井さんの手がける、生酛で仕上げ、米の個性を生かした「龍勢 Limited Series」は、そんな精神が込められた一本です。

 現在は竹原・小梨町で、同世代の仲間と米作りも始めた藤井さん。「例えば麹を使った味噌作りのワークショップができたら、食育にも繋がるし、酒蔵が地元にあることをもっと伝えられる」と、未来に描くアイデアは尽きません。蔵人や地域の仲間、さまざまな得意を持つ人たちとの繋がりを通して、藤井酒造は日本酒を媒介に日本の文化や暮らしの豊かさを伝えていきます。伝統を大切にしつつ、新しい挑戦を楽しむ蔵の姿勢は、竹原から全国、そして世界へと広がり、日本人が日本を誇れる未来への歩みを進めています。

( Other Article ) 関連する記事

This site is registered on wpml.org as a development site. Switch to a production site key to remove this banner.